改訂版刊行のことば

 元気な和歌山の未来づくりを,そしてこの国を背負って立つ小・中学生のみなさん。
 わたしたちの住む「ふるさと和歌山」は,美しい海,緑なす山,清らかな川,世界遺産に登録された高野山や熊野三山など,豊かな自然や文化に恵まれたところです。また,そうしたふるさとで育った多くの先人たちは,智慧と勇気を出して,和歌山,そして日本,あるいは世界を舞台にして,輝かしい業績を残してきました。このすばらしい伝統や文化を守り育てる使命がわたしたちにはあります。

 県の教育委員会では,「ふるさと和歌山」のすばらしさについて学び,郷土に対する誇りと自信をもって,これからのそれぞれの舞台で活躍してほしいとの願いから,平成12年に『ふるさと教育副読本「わかやまDE発見!」』を刊行し,みなさんの学校に届けました。

 それから,10年近くが経過し,社会や経済が急速に変化したり,自然や歴史の研究が進められたことで,みなさんに知ってほしいことがたくさん生まれてきました。そこで,より魅力ある内容にするために,この副読本を改訂することにしました。
 最新情報をもとに内容を改めるとともに,1つの内容を見開き2ページ程度にまとめ,図表や写真を多く取り入れるなど,「ふるさと和歌山」について学習することの楽しさが実感でき,学びたいという意欲を高めてもらえるように工夫しました。

 みなさんが,生まれ育った「ふるさと和歌山」に関心をもち,「なぜ」「どうして」という探求する気持ちを大切にして多くのことを学ぶことが,未来を切りひらいていくために必要な力を身につけていくことになるはずです。そのためにも,この副読本がさまざまな学習の場面で,しっかり活用されることを期待しています。

 本副読本を改訂するにあたり,原稿執筆や編集・監修等の労をとっていただきました委員の方々をはじめ,貴重な資料や写真等をご提供いただいた協力者の方々,編さんに関して貴重な意見をいただいた方々,関係各位の皆様に心からお礼申しあげまして,刊行のことばといたします。

和歌山県教育委員会
教育長 山口裕市

はじめに

 最近の人類は宇宙へむけて,すばらしい発展をとげつつあります。限りなく広大な宇宙への興味が強くわいてきます。
 このような時代に地球上の人類の国際化が極めて重要であります。順序としては外国のことを知る前に日本のことを,さらにふるさとのことを学ばなければなりません。身近なことはよく知っているように思いがちですが案外知られていません。正しく理解するためには,まず疑問をもって調べてみる必要があります。
 すばらしい環境と歴史をもつ和歌山を知り,故郷和歌山に自信と誇りを持つことが極めて重要であります。地域開発が成功する場所は,その地域に自信と誇りを持った人々が住むところであるといわれています。身近な色々なことに興味と疑問を持って,本書を読むと故郷のことがよくわかるようになり,さらに新しい疑問がわいてきます。
 このようにして,さらに日本の他の地方はどうか,世界はどうかと興味はつきなくなります。単に記憶するだけでなく,何故か,それが他にもどう影響をあたえていくのか等々,自主的に考えられるようになります。
本書は和歌山県域の諸分野を研究しておられる第一線の先生方が,最新の研究成果をわかりやすく書いてくださいました。さらにくわしく知りたい方には参考文献をあげていますので,一層くわしく勉強できます。研究はまず疑問を持つことから始まりますので,楽しみながら学習してください。
 現在の和歌山県域の歴史的なことで,地域と文化のすばらしさを,よくあわらしているのは文化財です。高野・熊野が世界遺産に登録されたことは有名でありますが,文化財の数をみると,国宝の数は全国第6位,国の重要文化財に指定されているのは第7位です。政治の中心地であった奈良・京都などを除くと,和歌山県が全国の中でも群を抜いて多くの文化財を持っていることがよくわかります。
 しかも,高野山だけではなく,県内の各地にもひろく存在しています。これは和歌山県の歴史と文化がすぐれていたことと,それらを大切に保存してきたことをよくしめしています。
 和歌山県は本州最大で最南端にある紀伊半島の南西部にあり,古くは紀伊国と呼ばれ,三重県の一部を含んでいました。したがって海と山々と温暖な気候に特色があり,長い間政治や経済の中心であった奈良・京都・大阪に近かったことも和歌山県に大きな影響をあたえています。
 海には黒潮が流れ,長く美しい海岸線があり,豊かな漁業資源に恵まれています。昔から海の利用が盛んで,漁業や造船や航海の技術にすぐれていました。
 源平の合戦では,熊野の水軍がどちらにつくかによって勝敗が決まったといわれるほど大きな勢力が存在していました。
江戸時代に大坂と江戸の間で物資を運んだ菱垣廻船の最初の船は,紀州の富田浦の船でした。それは,紀州の船と航海技術がすぐれていたからでありました。

 漁業技術が非常にすぐれていたことは紀州の漁師が近世に東北・関東・四国・九州にまで出かけて,漁業に従事するとともに,各地で漁業技術を教えたことからも明らかです。特に熊野の捕鯨技術は世界的にすぐれていました。
 紀州の人々が,海を上手に利用して,大坂・名古屋・江戸その他の各地に物資を運搬し,広く情報を集め,和歌山の発展に役立ちました。
 紀州は多くの山脈が連なり,高野山の大門や護摩壇山に立つと,すばらしく美しい山々がひろがり,雄大な自然美に驚かされます。これらの恵まれた山林資源が,紀州の木材・木炭として重要な役割を果たしてきました。熊野炭は有名で,特に備長炭は現在も多方面で利用されています。これは江戸時代に1,000度という高熱で焼かれ,幕末には他地方へも技術を教えましたが,今でも,備長炭といえば紀州が連想され,その技術水準の高さを証明する一例です。
 和歌山県の特色を簡単に図式化すると,逆三角形とみることができます。和歌山市を点A,高野山や橋本市を点B,新宮市や潮岬をふくめて熊野を点Cとします。A
 Bは紀ノ川の文化,BCは山の文化で,高野・熊野の文化を生み,ACは海の文化とそれぞれ特色づけることができます。
 ABの川の文化は物資輸送に役立ち,特にその下流には豊かな平野をつくります。BCは山の文化で木材・炭などの特産物の生産ともに,高野・熊野はそれぞれ宗教史の上で非常に重要な役割を果たしました。ACは海の文化で漁業や海運ですばらしい発展をとげました。このような風土の特色と人々の努力によって,誇るべき数々の和歌山の歴史がつくりだされました。
 つぎに和歌山県域の歴史の特色を簡単にみると,旧石器時代や縄文時代の遺跡は,県内の各地でみられます。弥生時代に入ると朝鮮半島や西日本各地と交流があったことがわかります。銅鐸も発達し,すぐれた文化の特色の一面をしめしています。
 古墳時代に入ると大陸文化との関係をしめす大谷古墳や全国的にも有名な岩橋千塚古墳群などがあり,古代において紀州が重要な位置にあったことを物語っています。
 中世には荘園が各地に見られ,惣とよばれる農民の自治組織も特に発達し,全国的にも注目されています。
 日本に鉄砲が伝来すると,いちはやく根来や雑賀でとり入れ,生産を始めたことは有名です。この頃の紀北の農村は宣教師によるとヨーロッパの豊かな農民と同じようであると記されています。しかし,その軍事力を過信したため,全国統一をめざす豊臣秀吉の前に敗れました。

 近世の特色としては,御三家紀州藩の成立があげられます。徳川家康の第10子頼宣が紀州藩主として紀州に入ったのは重要な地域であったからです。紀州は,山城国についでよい地域であるといわれています。京都の朝廷や四国にも近く,紀州藩は,地理的・政治的・経済的にも幕藩体制を支えるために重要な役割を持ちました。
 特に5代藩主吉宗は,8代将軍となり,享保の改革を成功させたことはよく知られるところです。
 13代藩主慶福は14代徳川家茂となるなど,紀州と徳川幕府との関係は密接でした。
 御三家紀州藩の威力の一例は,「紀州みかん」を積んだ船が他国の港に入る場合にも優先権を与えられたりしたことからもわかります。江戸時代は,紀州にとって政治・経済・文化その他の面でも一番栄光の時代であったといえると思います。
 この時代の紀州にはいろいろな点で非常にすぐれた特色があります。それらの中で,科学や技術に関する人物として,農業と土木で全国的に有名な大畑才蔵をあげることができます。特に彼の書いた『地方の聞書』では,農業の技術も科学的によく説明し,近世中期の農業技術書として高く評価されています。また,数学にもすぐれ,すべて正確な計算にもとづいて堤防など築いています。
 彼は村役人として村に住みながら,藩の役人としても活躍しました。代表的な工事は小田井堰を完成させたことです。彼の特色は工区を細分化し,それぞれの工区で作業を同時に行い,工事期間を短くしたことです。
 大畑才蔵の上司である井沢弥惣兵衛は,子供の頃から数学が好きで紀州藩の役人となり,いくつかの土木工事を指導しました。吉宗が8代将軍となると,関東で重要な用水路や新田開発の仕事を紀州流の土木工法で完成させました。
 紀州の技術水準の高さは華岡青洲が世界で最初に全身麻酔による乳癌手術を成功させたことからも明らかです。
 幕末から明治にかけて,知性豊かな女性として,川合小梅をあげることができます。小梅は,情報を重視し,世界に関心をしめし,日常生活から政治・社会・経済にまで長期間にわたって『小梅日記』を書きのこしています。この時代にこれほど長期間にわたり,内容のある日記を書きのこした女性は他に知られていません。
 紀州藩は明治政府に先がけて徴兵制を実施し,プロイセン式の軍隊をつくりました。各地から見学者がきたり,これに関連したメリヤスや皮革産業もすばらしい発展をとげました。
 非常にすぐれた和歌山の風土と歴史を学び,自信と,ほこりを持って,目を世界にむけ,皆さんが大いに活躍されることを期待いたします。

監修者              
和歌山大学名誉教授 安 藤 精 一

 

 

 

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